- 客観的手法で企業価値を把握
- 類似企業選定が評価の要
- 長期データ分析の必要性
企業価値評価において、マルチプル法はそのシンプルさと客観性から、経営判断やM&Aの意思決定プロセスにおいて注目される評価手法の一つです。
特に非上場企業の場合、DCF法のような将来キャッシュフローの細かな予測が困難である状況下において、類似する上場企業の指標と比較することで、迅速に企業価値の目安を算出できる点は大きなメリットとされています。
本稿では、20代の若手ビジネスマンを対象に、2025年の時流を踏まえた上で、マルチプル法の基本概念、利用上の注意点及び今後の展望について専門的視点から解説します。
マルチプル法とは
マルチプル法は、企業の売上高や利益、純資産などの指標に、類似企業の市場における評価倍率(マルチプル)を乗じることで、対象企業の相対的な価値を算出する評価手法です。
この方法は、主にマーケットアプローチの一環として位置付けられており、上場企業の株価や各種財務指標を参照することで、客観性の高い企業価値評価を可能にします。
例えば、EBIT(利息及び税引前利益)、EBITDA(利払い前・税引前・償却前利益)、PER(株価収益率)、PBR(価格簿価比率)などの指標に基づき、同業種や類似事業を展開する上場企業の統計値を用いることにより、評価対象企業の価値に将来的な収益性や市場環境を反映させることができます。
このプロセスでは、まず適切な類似企業を選定し、次にそれら企業の各指標から算出されるマルチプルの平均値や中央値を求め、最終的に対象企業の該当する数値に掛け合わせることで、企業価値や株主資本価値を導出します。
なお、マルチプル法の計算においては、比較対象となる類似企業の選定が極めて重要であり、事業規模、収益性、成長性など多角的な要素を踏まえて慎重に行う必要があります。また、上場企業の株価自体がマクロ経済や業界固有のリスクにより大きく変動するため、短期的な値動きに惑わされず、観測期間を十分に設けた上で平均的な評価倍率を算出することが求められます。
マルチプル法の注意点
マルチプル法の活用にあたっては、そのシンプルさゆえにいくつかの留意点が存在します。
まず第一に、評価結果は計算者が選定する類似企業の数値に大きく依存するため、評価対象企業との事業内容や財務状況の類似性が十分でなければ、算出される倍率にばらつきが発生する可能性があります。
また、選定する指標自体が業種特性や企業の成長ステージにより大きく異なる場合があるため、どの指標を採用するか慎重に検討する必要があります。
第二に、上場企業の株価は、為替変動、金利動向、地政学的リスクなどのマクロ環境の変化や、企業固有のリスク要因により日常的に変動するため、短期的な市場ノイズが企業評価に影響を及ぼすリスクがあります。
そのため、観測期間を長期に設定するか、または異常値を排除するための財務分析を併用するなど、安定したデータをもとに評価倍率を算定する工夫が必要不可欠です。
さらに、マルチプル法は企業の将来的な収益性を市場が既に織り込んでいると前提にしているため、急激な業績変化や社会情勢の変化に対しては反映が遅れる可能性があり、複数の評価手法を併用することで、より正確な評価を目指すことが推奨されます。
また、具体的な計算例を挙げると、ある非上場企業A社のEBITDAが計算上重要な指標として採用された場合、類似上場企業B社のEV/EBITDA倍率をもとに評価される手順が取られます。
B社の株式時価総額に対し、その企業が持つ有利子負債を加えることで算出されるEV(企業価値)を、B社のEBITDAで割った倍率が求められます。
この倍率をA社のEBITDAに適用することで、A社のEVが算出され、そこからさらに有利子負債を控除することにより、株主資本価値が決定されます。
この事例は、マルチプル法が相対的な評価手法として、実務上どのように利用されるのかを示す好例と言えるでしょう。
一方で、PERやPBRを用いた計算も頻繁に実施されるため、評価方法としては複数の指標による算出結果を比較検討することが望まれます。
このように、マルチプル法は簡便性と実務適用性の高さを有する一方で、選定基準や評価指標の選択、そして市場変動リスクに十分に留意する必要がある手法であると言えます。
まとめ
マルチプル法は、企業価値評価においてシンプルかつ客観性の高い指標として、特に非上場企業に対して有効な評価手法です。
上場企業の市場データを活用して算定されるこの手法は、将来的な収益性や市場環境を一定程度反映するため、M&Aや株式投資の初期スクリーニングに有用なツールとなります。
一方で、類似企業の選定基準や指標の選定、そして株価変動といったリスク要因に起因する評価結果のブレは、実務において必ず考慮すべき点です。
そのため、マルチプル法を利用する際には、他の評価手法との併用や、長期間の市場データをもとにした慎重な分析が求められます。
また、近年のグローバル経済の変化や市場環境の不確実性を踏まえると、企業の成長性やリスクの多面的評価を行うことが、マルチプル法単独での評価に頼らず、より総合的な企業分析へと繋がる重要な要素となります。
最終的には、企業価値評価の各手法を相互に補完することにより、より信頼性のある意思決定を支える評価基盤が構築されるといえるでしょう。
2025年現在、急速な技術革新と国際競争の激化の中で、若手ビジネスマンがこれらの手法を正しく理解し、実務に応用することは、将来的なキャリア形成や企業の経営戦略においても大いに役立つはずです。
自分のペースで学べること、実践につながる内容でとても良かったです。
今後、他の講座もチャレンジしたいです。