- 顧客接点を増やす戦略が大切
- 一貫体験で信頼感を醸成
- 情報連携が成長の鍵
マルチチャネルとは、企業が顧客と接する販売経路や情報発信の窓口を複数持ち、それぞれを通じて商品・サービスを提供する考え方です。実店舗だけでなく、ECサイトやSNS、電話窓口などを用意することで、顧客が自分に合った方法で商品を知り、購入や問い合わせをできるようになります。一方で、窓口を増やすだけでは、在庫や顧客情報の管理が複雑になることもあります。
マルチチャネルを検討するときは、チャネルの数を増やすことだけでなく、どの顧客に何を届けるのか、それぞれの窓口にどんな役割を持たせるのかを明確にすることが重要です。実店舗とネットショップを持つ小売業だけでなく、電話・メール・チャットで問い合わせに対応する企業や、営業とウェブサイトの両方で見込み顧客に接点を持つ企業にも関係します。
似た用語には、クロスチャネルやオムニチャネル、O2Oなどがあります。これらは複数の接点を活用する点では共通していますが、チャネル間の情報連携や顧客体験の設計に違いがあります。マルチチャネルとは何かを正確に理解したうえで、メリットと注意点、導入手順、成果の測り方まで押さえると、自社に必要な取り組みを判断しやすくなります。
マルチチャネルとは複数の顧客接点を持つこと
チャネルとは、企業と顧客をつなぐ経路や接点のことです。販売の場だけを指すのではなく、商品を知る、情報を得る、相談する、購入する、利用後に問い合わせるといった顧客との接触に使われる手段を広く含みます。実店舗やECサイトに加え、SNS、電話、メール、広告、カタログ、営業担当者との商談などもチャネルになり得ます。
「マルチ」は複数を意味するため、マルチチャネルとは、顧客に商品やサービスを届ける接点を複数設けた状態です。たとえば、店舗販売を続けながらECサイトを開設する、電話だけだった問い合わせ窓口にメールフォームやチャットを加える、といった取り組みが該当します。複数の窓口を通じて、異なる生活環境や利用習慣を持つ顧客に接触できることが基本的な特徴です。
マルチチャネルの要点は、単に複数の媒体を運営していることだけではありません。各チャネルがそれぞれ独立して運営され、顧客データや在庫、注文情報が十分に共有されていない状態を指す場合が多くあります。用語の使い方は業界や企業によって異なるため、社内で施策を議論するときは、チャネルの数だけでなく、どの情報が連携しているかも確認すると誤解を防げます。
実店舗とECサイトを運営する場合、顧客は店頭で商品を確認して店舗で購入することも、ウェブ上で商品を見つけて配送を依頼することもできます。問い合わせ窓口なら、電話で相談する人もいれば、営業時間外にフォームから連絡する人もいます。マルチチャネルは、企業が顧客に接点を選ぶ余地を用意する考え方であり、顧客が必ず複数の経路を行き来することを意味するわけではありません。
販売・情報発信・サポートで使われるチャネル
商品やサービスを販売するチャネル
販売チャネルは、顧客が商品やサービスを注文し、代金を支払うための窓口です。実店舗、自社ECサイト、オンラインモール、電話注文、訪問販売、カタログ通販などが代表例です。業種によっては、予約サイトやアプリ、代理店、営業担当者を通じた契約も販売チャネルに含まれます。購入場所を増やすと、地域や営業時間の制約を受けにくくなり、従来の窓口では出会えなかった顧客にも届く可能性があります。
どの販売チャネルを選ぶかは、商品特性と購入時の不安を踏まえて判断します。サイズ感や使用感を確かめたい商品なら、実物を見られる店舗や相談できる窓口が購入を後押しすることがあります。一方、仕様が明確で比較しやすい商品なら、ECサイトで詳細を確認して注文する方法が便利です。サービスの場合は、オンライン相談や予約フォームが、対面の営業だけでは接点を持ちにくい顧客への入り口になります。
販売窓口を増やす際は、各チャネルで扱う商品、価格、送料、返品条件、問い合わせ先を整理しておく必要があります。条件が異なること自体が必ずしも問題ではありませんが、違いを顧客が理解できる形で示さなければ、購入後の不満や問い合わせにつながります。チャネルごとの運営担当者にも情報を共有し、商品説明や販売条件が古いまま残らないよう、更新の担当と確認方法を決めておきましょう。
認知や検討を促す情報発信チャネル
情報発信のチャネルは、顧客が商品や企業を知り、内容を理解するために利用されます。企業ウェブサイト、ブログ、SNS、メールマガジン、動画、ウェブ広告、チラシ、展示会、セミナーなどが例です。チャネルによって情報の届け方や受け取る人の状況が異なるため、同じ内容をすべての窓口にそのまま掲載するより、目的に応じた見せ方を検討することが大切です。
たとえば、SNSは短い情報や視覚的な素材を使って関心を得る場として活用できます。ウェブサイトは、商品の仕様や利用条件を詳しく説明する役割を担えます。メールマガジンは、登録した顧客に新着情報や役立つ案内を届ける手段です。店舗の掲示物やチラシは、来店中の顧客や地域の人に情報を伝えます。それぞれの強みを把握し、顧客が次に必要とする情報へ自然に進めるよう導線を設計します。
情報発信では、投稿や配信の頻度を増やすことだけを目標にしないよう注意します。各チャネルで発信する情報に食い違いがあると、顧客はどれを信頼すればよいか分からなくなります。価格やキャンペーン、提供条件など、判断に影響する情報は特に正確さが必要です。発信内容の承認者や更新日を明確にし、終了した案内が残っていないか定期的に確認する運用が欠かせません。
購入後の問い合わせや支援を行うチャネル
サポートチャネルは、購入前後の質問やトラブル、利用相談を受け付ける窓口です。電話、メール、問い合わせフォーム、有人チャット、チャットボット、FAQ、SNSのメッセージ機能などが挙げられます。顧客によって、すぐに回答が欲しい、文章で記録を残したい、自分で調べて解決したいなど希望が異なります。複数の窓口があれば、問い合わせ内容や顧客の事情に応じた方法を選べるようになります。
すべてのサポート窓口で同じ対応を提供する必要はありません。緊急性が高い相談は電話や有人チャットで受け、よくある質問はFAQで案内し、営業時間外の連絡はフォームで受け付けるといった役割分担が考えられます。ただし、顧客が何度も同じ説明をしなくて済むよう、問い合わせ内容や対応状況を担当者間で引き継ぐ仕組みが必要です。窓口を増やしても、返信の責任者が不明確では利便性は高まりません。
サポートチャネルを選ぶときは、利用者の使いやすさだけでなく、問い合わせの種類や社内の対応能力も考慮します。チャットを設けても回答できる担当者がいなければ、返信が遅れ、かえって不満を生む場合があります。電話対応の時間帯、メールの返信目安、緊急時の連絡先などを分かりやすく表示し、チャネルごとに対応範囲を定めておくと、顧客が適切な窓口を選びやすくなります。
マルチチャネルに取り組むメリット
大きなメリットは、顧客と接点を持つ機会を増やせることです。店舗だけで営業している場合、来店できる地域や営業時間が接点の範囲を左右します。ECサイトを加えれば、遠方に住む人や店舗の営業時間に合わせにくい人にも商品を届けられます。逆に、オンライン中心の事業が相談窓口や実店舗を持てば、画面だけでは判断しにくい顧客の疑問に応えられる可能性があります。
接点が複数あれば、顧客の好みや状況に応じて異なる入り口を用意できます。SNSで商品を知り、ウェブサイトで詳しい説明を読み、店舗で実物を確認して購入する人もいれば、広告からECサイトへ直接訪れて注文する人もいます。すべての顧客が同じ順序で動くわけではありません。チャネルを複数持つことで、顧客が情報収集や購入を始める場所を選びやすくなります。
チャネルごとの反応を個別に把握できることも利点です。店舗では接客時の質問や売れ行きから、顧客が迷っている点をつかめます。ECサイトでは、閲覧された商品や購入までの動き、離脱が起きたページなどを確認できます。SNSでは投稿への反応や質問の傾向を見られます。異なるデータを別々に分析することで、各窓口の役割や改善点を見つけやすくなり、施策の選択にも役立ちます。
問い合わせ手段が複数あることは、顧客の負担を減らすことにもつながります。電話が苦手な人はフォームを使い、すぐに相談したい人は電話を選ぶなど、状況に合った接点を利用できるためです。また、企業にとっても、特定の窓口に問い合わせが集中した場合に、内容に応じて別の窓口へ案内する選択肢が生まれます。ただし、顧客満足度や売上の向上は自動的に起こるものではなく、各チャネルの運営品質を保つことが前提です。
導入前に把握したいデメリットと運用上の課題
チャネルが増えると、運営に必要な人員、時間、費用も増える傾向があります。ECサイトには商品情報や注文処理、決済、配送の管理が必要です。SNSには投稿内容の企画やコメント対応が伴い、店舗には接客や売場管理があります。新しい窓口を立ち上げる費用だけでなく、日々の更新や問い合わせ対応にかかる継続的な負担まで見積もらなければ、担当者の業務が回らなくなるおそれがあります。
販売チャネルが独立していると、在庫の把握や商品の引き当てが難しくなる場合があります。たとえば、店舗用とEC用で在庫数を分けていると、一方では品切れでも、別の窓口では商品が残っていることがあります。反対に、同じ在庫を複数の窓口で販売する場合は、更新が遅れると実際には用意できない商品を注文可能としてしまうことがあります。商品の保管場所や販売単位、在庫更新のタイミングを決めることが重要です。
顧客情報がチャネルごとに分かれていると、同じ顧客が複数の窓口を利用しても、その履歴を一続きで確認できない場合があります。店舗で受けた相談がECの担当者に伝わらなければ、顧客が同じ説明を繰り返すことになります。データを連携しない段階でも、問い合わせ記録を共有する方法や、引き継ぎに必要な項目を定めることは可能です。個人情報を扱う際は、利用目的や閲覧権限、保管方法にも配慮してください。
チャネルごとに価格や説明、対応の品質が異なると、顧客が企業に対して一貫性を感じにくくなります。たとえば、ウェブサイトでは返品可能と読めるのに、窓口で異なる案内を受けると、不信感を招きかねません。すべてのチャネルを同一の運営方法にそろえる必要はありませんが、ブランドの基本方針、重要な商品情報、顧客対応の基準は共有しておくべきです。運用開始後に生じる不整合を拾い上げる仕組みも用意します。
シングル・クロス・オムニチャネルとの違い
シングルチャネルは接点が一つの状態
シングルチャネルとは、顧客に商品やサービスを届ける主要な接点が一つに限られている状態です。実店舗だけで販売する、ECサイトだけで注文を受け付ける、問い合わせを電話だけで受ける、といった形が該当します。窓口が限定されるため運営の範囲を把握しやすく、業務や顧客対応の手順を集中して整えやすい点があります。
一方、顧客がその窓口を利用しにくい場合には、接点そのものを持てない可能性があります。店舗に来られない人は購入が難しく、電話ができない時間帯には相談できないなど、利用者の事情が機会を左右します。シングルチャネルが適切かどうかは、接点の数だけで判断できません。事業の規模や顧客の行動、販売する商品、運営可能な体制を踏まえて、追加の窓口が必要かを検討します。
マルチチャネルは、このような単一の窓口に別の接点を加え、複数の経路から顧客にアプローチする段階と捉えられます。たとえば、実店舗を運営する企業が、オンライン注文を受け付ける仕組みを加えるケースです。導入初期に既存の運営方法を大きく変えず、新しい接点の需要や業務負荷を確かめられるため、段階的に展開したい企業にとって取り組みやすい場合があります。
クロスチャネルは一部の情報や機能をつなぐ状態
クロスチャネルは、複数のチャネルを持ちながら、顧客情報や在庫情報などをチャネル間で連携させる考え方です。マルチチャネルでは別々に運営していた窓口同士に接続を設けることで、顧客があるチャネルで始めた行動を別のチャネルで続けやすくします。具体的には、ウェブサイトから店舗在庫を確認する、オンラインで予約した商品を店頭で受け取るといった仕組みが考えられます。
ただし、クロスチャネルと呼ばれる連携の範囲は企業や業界によって異なります。在庫だけを共有する場合もあれば、会員情報や注文履歴の一部を参照できる場合もあります。どの情報がいつ更新されるのか、連携対象外の業務は何かを整理しないと、顧客や現場が「すべての窓口で同じことができる」と受け取ってしまうことがあります。連携の範囲を明示し、例外時の対応も決めておくことが重要です。
マルチチャネルからクロスチャネルへ進む際は、すべてのシステムを一度に統合しなくても構いません。顧客の不便が大きい場面や、業務上の損失が起きている情報から連携を検討します。店舗とECの在庫差が販売機会を損ねているなら、まず在庫の共有方法を整える選択肢があります。顧客情報の重複入力が負担なら、会員情報の連携を優先できます。課題に沿って対象を絞ることで、投資の理由を説明しやすくなります。
オムニチャネルは顧客視点で接点を統合する状態
オムニチャネルは、実店舗、ECサイト、アプリ、サポート窓口などを横断し、顧客が接点の違いを意識しにくい一貫した体験を目指す考え方です。顧客情報や在庫、注文、ポイント、問い合わせ履歴などを広く連携し、認知から購入、受け取り、利用後の支援までをつなげます。単にシステムを接続するだけでなく、顧客がどの窓口から行動しても困らないよう、業務やサービスの設計を見直す点が特徴です。
たとえば、顧客がオンラインで商品の情報を調べ、店舗で試した後に注文し、自宅への配送を選ぶ流れを想定できます。購入後に問い合わせる際も、窓口が注文内容を確認できれば、顧客は購入経路を何度も説明せずに済みます。このように、顧客の行動がチャネルをまたいでも途切れない状態をつくるには、データの共有だけでなく、店舗・EC・物流・サポートの担当者が共通の運用ルールで動けることが必要です。
オムニチャネルは、マルチチャネルより常に優れているという意味ではありません。情報を統合する仕組みの整備や、部門間の業務調整には相応の時間と費用がかかります。顧客が複数の接点を使う必要性が小さい事業では、連携範囲を広げても得られる効果が限られることがあります。まずマルチチャネルで顧客との接点を増やし、具体的な課題が明らかになった部分から連携を深める方法も現実的です。
マルチチャネルを導入する手順
目的と顧客の行動を明らかにする
最初に決めるのは、チャネルを増やす目的です。新しい顧客に商品を知ってもらいたいのか、購入の選択肢を広げたいのか、問い合わせの待ち時間を減らしたいのかによって、必要な窓口は異なります。目的を「売上を伸ばす」のような大きな表現だけにとどめず、どの顧客に、どの場面で、どんな不便を解消するのかまで具体化すると、チャネル選定の軸ができます。
次に、顧客が商品やサービスを知ってから利用するまでの行動を確認します。検索、SNSでの情報収集、店頭での相談、注文、受け取り、問い合わせなど、顧客が通る可能性のある接点を時系列で書き出します。顧客がどの段階で迷うのか、利用をやめるのはどの場面か、現在の窓口では対応しにくい人がいるかを調べます。アクセス解析だけでなく、問い合わせ内容や接客時の声も判断材料になります。
顧客像を一つに決めつけず、利用状況の違いを捉えることも大切です。同じ商品でも、初めて購入する人と継続利用者では必要な情報が異なります。スマートフォンで手軽に注文したい人もいれば、担当者に相談してから決めたい人もいます。既存の顧客データを扱う際は、必要以上の個人情報を集めず、利用目的に沿った範囲で分析します。想定だけで結論を出さず、顧客の声や実際の行動で確かめましょう。
チャネルの役割と運営条件を決める
目的と顧客行動が整理できたら、各チャネルの役割を決めます。たとえば、SNSは新商品を知るきっかけ、ウェブサイトは詳細情報の提供、店舗は体験や相談、ECサイトは注文受付、メールは購入後の案内を担うといった形です。役割を分けることで、同じ情報を繰り返し発信するだけの状態を避けられます。チャネルから別の接点へ案内する場合は、顧客が移動する理由と次の行動を分かりやすく示します。
運営条件も具体的に決めておきます。担当者、対応可能な時間、更新頻度、コンテンツの確認者、問い合わせへの返信目安、注文や返品の処理方法などです。たとえば、SNSのコメントを誰が確認し、専門的な質問をどの部署へ引き継ぐかが決まっていなければ、投稿後の対応が滞ることがあります。担当者が少ない場合は、チャネルの数を絞る、投稿頻度を抑える、問い合わせ範囲を限定するといった設計も検討します。
費用は導入時だけでなく、継続運用に必要な人件費や制作費、配送費、決済手数料、システム利用料なども含めて検討します。チャネルを追加した結果、既存の売上が移動しただけなのか、新しい顧客や注文が増えたのかを後から評価できるよう、開始前の状況を記録しておきます。収益だけでなく、業務負荷や顧客の利便性も評価対象です。特定のチャネルだけが忙しくなる可能性も考え、対応できる範囲で設計します。
小さく試し、結果を見て改善する
初めから多くのチャネルを一斉に立ち上げるのではなく、優先度の高いものから試すと、運用上の問題を把握しやすくなります。たとえば、問い合わせの多い内容に対してFAQを整備する、既存顧客がよく利用するSNSで案内を始めるなど、目的と課題がはっきりした施策から着手します。試行期間を設け、誰が何を確認するのか、継続や修正を判断する時期をあらかじめ決めておくと、惰性で運営を続けにくくなります。
試行中は、アクセスや注文などの数値だけでなく、顧客の反応や現場の作業も記録します。FAQを見ても問い合わせが減らないなら、必要な情報が見つけにくい、説明が分かりにくいといった可能性があります。ECサイトへの訪問が増えても注文につながらない場合は、商品情報や決済、配送条件に不安が残っていないかを調べます。数字の変化を見て終わりにせず、なぜその結果になったのかを仮説として整理します。
改善の際には、チャネルそのものをやめるか続けるかだけで判断しないことが重要です。対象顧客を変える、発信する内容を見直す、別の窓口への案内を加える、運営時間を調整するなど、改善方法は複数あります。成果が期待に届かない場合は、目的が曖昧だったのか、運用体制が足りなかったのか、顧客がそのチャネルを必要としていなかったのかを分けて考えます。検証内容を記録し、次の施策に活かしましょう。
成果を測定し、改善につなげる方法
マルチチャネルの成果は、チャネルを増やしたという事実だけでは判断できません。まず、導入目的に合わせて評価指標を設定します。認知を広げたいなら、対象となる人への到達状況や、情報を見た後のサイト訪問などを確認できます。販売機会を増やしたいなら、注文数や購入率、チャネルごとの売上に加えて、返品やキャンセルも見ます。指標は、実際の事業目標とつながるものを選ぶことが重要です。
問い合わせ窓口を増やす場合は、問い合わせ件数だけでなく、対応までの時間、解決に至った割合、再問い合わせの発生状況などを確認します。窓口への問い合わせが減ったとしても、顧客が問題を解決できずに離れているなら、成功とは言えません。FAQの閲覧数や検索語、チャットから有人対応への移行状況なども、顧客がどこでつまずいているかを知る手がかりになります。指標を複数組み合わせて、顧客側と運営側の両面から見ます。
チャネルごとの数値を比較するときは、役割の違いを考慮します。SNSは認知や関心を得る役割、ECサイトは注文を受ける役割、店舗は相談や体験を担うなど、同じ成果指標では測りにくい場合があります。SNSの直接注文が少なくても、商品名の検索や店舗への来店につながっている可能性があります。逆に、ECサイトの注文が増えても、広告費や物流費を含めた採算が合っていないことがあります。評価基準を役割ごとに設定しましょう。
改善のサイクルを回すには、データを確認する頻度と会議の進め方を定めます。定期的に各チャネルの実績を共有し、目標との差、顧客の声、現場の課題を確認します。そのうえで、次に試す変更を絞り、担当者と期限を決めます。一度に多くの要素を変えると、何が結果に影響したのか分かりにくくなるため、検証内容を明確にして実施します。結果が出た施策も、顧客や環境の変化に合わせて見直すことが必要です。
よくある失敗と避けるための工夫
よくある失敗の一つは、流行や競合の動きを理由に、目的が定まらないままチャネルを増やすことです。アカウントや窓口を開設しても、対象顧客が利用していない、発信内容を用意できない、問い合わせへの対応が遅いといった状態では、成果につながりにくくなります。開設前に「誰のどんな課題を解決する窓口なのか」を言葉にし、役割を説明できないチャネルは優先度を下げる判断も必要です。
各チャネルを別々の担当部署に任せきりにすることも、問題を招きます。部門ごとに目標を追う結果、店舗とECが顧客を取り合う、案内内容が異なる、問い合わせを他部署へ転送するだけで解決しない、といった状況が起こり得ます。チャネルごとの目標に加え、顧客対応やブランド全体に関する共通ルールを設けます。複数部門が関わる課題を話し合う担当者や場を決め、連携の責任が曖昧にならないようにしましょう。
顧客データや在庫情報の扱いを後回しにすることも避けたい失敗です。顧客情報が分散したままだと、重複登録や引き継ぎ漏れが生じやすくなります。在庫の更新方法が決まっていなければ、売り越しや機会損失が発生するおそれがあります。大規模なシステムをすぐ導入できない場合でも、共通の記録様式や更新ルール、確認担当を決めることは可能です。手作業で管理する場合は、更新漏れや入力ミスをどう発見するかも合わせて考えます。
もう一つの失敗は、開設後の効果検証を行わず、過去の計画をそのまま続けることです。顧客の反応や事業環境が変われば、以前有効だったチャネルや発信方法が合わなくなることがあります。運営を続けるか、内容を変えるか、別の窓口に統合するかを定期的に検討してください。停止する場合も、顧客への告知や代替窓口の案内を行い、問い合わせや注文が途切れないようにします。撤退の条件を事前に考えておくことも、無理のない運営に役立ちます。
マルチチャネルに関するよくある質問
「小規模な事業でも導入できますか」という質問には、可能ですが、運営できる範囲から始めるのがよいと答えられます。SNSの情報発信や問い合わせフォームなど、既存の業務に追加しやすい接点から試す方法があります。ただし、開設費用が低くても、投稿作成や返信、情報更新には時間がかかります。無料で始められるかではなく、継続して顧客にとって役立つ状態を保てるかを基準に判断しましょう。
「チャネルはいくつ持つべきですか」という問いに、共通の正解はありません。顧客の行動や商品特性、社内の人員、予算によって適切な数は異なります。重要なのは、顧客が必要とする場面に適切な接点を用意し、各窓口を維持できることです。使われないチャネルを増やすより、既存の窓口で情報が不足していないか、顧客が迷わず利用できるかを確認するほうが、先に取り組むべき場合もあります。
「マルチチャネルを始めると、すぐにオムニチャネルへ移行すべきですか」という質問への答えも、必ずしもそうではありません。マルチチャネルで顧客接点を増やした後、チャネル間の情報分断による不便や業務上の課題が具体的に見えてきたら、必要な連携を検討します。たとえば在庫の共有、顧客の問い合わせ履歴の引き継ぎなど、顧客と現場の双方に効果が見込める領域から優先します。段階的な整備でも、目的を持った連携は可能です。
「顧客データを必ず一元管理しなければなりませんか」という点も、目的と運用状況によります。複数の接点を持つだけであれば、すべてのデータを一つにまとめることが必須とは限りません。ただし、顧客対応の引き継ぎや購買履歴の確認が必要な場合は、情報共有の方法を用意する必要があります。システムの導入を先に決めるのではなく、どの情報を誰が何のために使うのかを整理し、必要な範囲に応じて管理方法を選びましょう。
まとめ:目的に合った接点を無理なく育てる
マルチチャネルとは、実店舗、ECサイト、SNS、電話、メールなど、顧客と接する窓口を複数用意することです。顧客が情報を知る、商品を選ぶ、購入する、利用後に相談するといった場面で、異なる方法を選べるようにします。チャネル間の連携が限定的な状態を指すことが多く、複数の接点を持つことと、すべての接点が統合されていることは分けて考える必要があります。
販売機会や情報提供の機会を増やし、顧客の好みや状況に合わせた窓口を提供できることは、マルチチャネルの主な利点です。一方で、運営コストや担当者の負担、在庫管理、顧客情報の引き継ぎ、ブランドの一貫性など、取り組みと同時に考えるべき課題もあります。接点を増やすほど成果が上がるとは限らないため、顧客にとっての必要性と、企業が継続して運営できる体制の両方を確かめましょう。
導入にあたっては、まず顧客の行動や不便を把握し、達成したい目的を明確にします。そのうえで、各チャネルの役割、運営担当、対応範囲、評価指標を決め、優先度の高い取り組みから小さく始めます。実施後は、売上や問い合わせ数だけでなく、顧客の反応や現場の負担も確認し、必要に応じて運用を見直してください。チャネルごとの案内や対応に食い違いがないかを定期的に点検することも大切です。
マルチチャネルを続ける中で、顧客が窓口をまたぐ不便や、在庫・問い合わせ情報の分断が明らかになったら、クロスチャネルやオムニチャネルに向けた連携を検討できます。すべてを一度に統合するのではなく、顧客や現場にとって効果の大きい課題から手をつけると、取り組みの目的を保ちやすくなります。自社の資源と顧客のニーズに合う接点を選び、運用を改善しながら育てることが、持続可能なマルチチャネルの基本です。