- 感情重視化のリスク増大
- 情報歪曲とフィルターバブル
- 真実把握・判断力向上
近年、政治的分極化とインターネットメディアの急速な発展に伴い、政治コミュニケーションの在り方が大きく変革を迎えている。2016年のイギリス国民投票やアメリカ大統領選挙で浮き彫りとなった「ポスト・トゥルース(post-truth)」現象は、客観的な事実よりも感情や個人の信念が世論形成に大きく影響を及ぼす状況を意味する。このような現象は、政治家やメディア、さらには一般市民の情報リテラシーにまで広範な影響をもたらしており、20代の若手ビジネスマンにとっても、最新の政治・社会情勢を正しく理解することが、今後の経営判断やキャリア形成に直結する重要なテーマとなっている。
ポスト・トゥルースとは
ポスト・トゥルースの時代と表現される現象は、従来の客観的事実や論理に基づく議論の枠組みを超え、むしろ感情的な訴えや信念が政治的決断に影響を及ぼす状況を示す。
この概念は、オックスフォード大学出版局が2016年に「ワード・オブ・ザ・イヤー」として選出した背景にあり、イギリスのEU離脱を問う国民投票や、アメリカにおけるトランプ大統領の就任など、実際の政治現場で数多くの事例が報告されている。
政治家やキャンペーン関係者は、時に誇張や歪曲といった手法を用い、国民の感情に訴えることで支持基盤を拡大する傾向が見受けられる。
この現象は、客観的事実による裏付けや論理的議論が十分に機能しない状況下で、あえて「代わりの事実(alternative facts)」を提示する動きとしても現れており、政治とメディアの関係性、さらには社会全体の情報エコシステムに対する信頼性の再検証が必要とされている。
日本においては、インターネットの普及とともにネット右翼や誇張された報道が目立つようになった。無党派層が大きな影響力を持つ中、瞬時に拡散される情報の中で、本当に信頼に足る事実とそうでないものとの識別が一層困難になっている。
このように、ポスト・トゥルースは単なる政治現象に留まらず、情報化社会における信頼の再構築や社会の分断と連動している。ポスト・トゥルースの現象は、政治だけでなく経済、企業経営、国際関係といった多くの分野に波及効果を及ぼすため、現代のビジネスパーソンにとっても理解しておくべき重要な概念である。
ポスト・トゥルースの注意点
ポスト・トゥルースの状況下では、情報の正確性よりも、いかに感情に訴えるかが先行するため、様々な注意すべき点が浮上する。
第一に、政治家やメディアが事実を歪曲するリスクがある。政治的支持を得るために、実際のデータや統計情報が誇張され、その背後にある経済指標や社会情勢の本質が見過ごされることが少なくない。
第二に、インターネット上のアルゴリズムが利用者の嗜好に応じた情報のみをフィルタリングする「フィルターバブル」現象が進行し、同じ意見や信念を持つ者同士が閉じたコミュニティを形成する傾向が強まっている。
これにより、反対意見や異なる視点に触れる機会が減少し、結果として市民の分断が進み、社会全体としての合意形成が一層難しくなる。
第三に、ファクトチェックの遅延や不十分な検証が問題となる。正確な検証を迅速に行うための体制やコスト負担、そして検証結果そのものが曖昧になってしまう場合には、逆に情報リテラシーの向上に逆風が吹くリスクがある。
例えば、朝日新聞やその他の主要メディアはファクトチェックの取り組みを進める中で、社会のウオッチ・ドッグとしての役割を果たそうとしているが、情報が瞬時に拡散される現代において、誤情報や過剰な誇張に対抗するには、さらなる制度整備や技術革新が求められている。
また、個人レベルでも、正確な情報を見極めるためのリテラシーを高める努力が不可欠となっている。特に若手ビジネスマンは、多忙な日々の中で信頼性の高い情報を取捨選択し、経済動向や国際情勢を適切に把握することが、戦略的な意思決定に直結するため、情報の真偽を各自で検討する姿勢が必要である。
企業経営やマーケット動向の変化は、ポスト・トゥルースといった現象から影響を受けることが多い。業界の動向を把握する上で、表面的なキャッチフレーズやプロパガンダに流されることなく、根拠に基づいた情報分析の手法を確立することが、企業の競争力を維持・向上させる鍵となる。
さらに、SNSなどのデジタルプラットフォームが重要な情報発信源となっている現状は、情報の質だけでなく、情報の拡散メカニズムに対する深い洞察を要求している。企業が国際市場で競争する上でも、グローバルな情報ネットワークの中で、正確な情報と誤情報がどのように流通しているかを理解することは、リスクマネジメントの一環としても極めて重要である。
まとめ
ポスト・トゥルースの時代は、従来の客観的事実に基づく政治的議論が揺らぎ、感情や信念に基づく情報が優先される現象として、グローバルな政治とメディアの状況を象徴している。
イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領誕生をはじめとする国際的な事例からも明らかなように、現代社会においては、情報の誤解釈や誇張が、政治の安定性や社会の統合に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
特に、インターネットやSNSが情報流通の主流となる中で、個々の嗜好に合わせた情報がフィルタリングされ、市民間の分断が加速している現状は、企業経営や公共政策にも大きなリスクとして現れる。
そのため、ビジネスパーソンは、正確な情報収集と分析を行い、ファクトチェックをはじめとする信頼性向上のための仕組みに注目する必要がある。
また、政治・経済の分極化に伴うリスクを適切に評価し、内部統制やリスクマネジメントの一環として、情報リテラシーの向上を組織全体で推進することが求められる。
さらに、メディアやジャーナリズムの新たな挑戦に目を向け、従来の枠組みに囚われず、革新的な検証手法を積極的に取り入れることで、情報の正確性と信頼性を確保する姿勢が重要である。
最終的に、ポスト・トゥルースの時代においては、正確な事実と論理に基づいた議論が、政治のみならず経済や社会全体の安定に不可欠である。若手ビジネスマンとしては、多様な情報に対する批判的思考を養い、内外の変化に迅速かつ柔軟に対応できる能力を身につけることが、今後の成功に大きく寄与するといえる。
(出典: NIRA総合研究開発機構「ポスト・トゥルースの時代とは」わたしの構想No.31)
学んだことを自身の言葉でまとめること、相手に伝わりやすくする為のひと手間や工夫、根拠と理由で論理を組み立てる事が、段々自分の中に癖として落とし込まれていると感じられる。
仕事にどう活かすかも毎回考えさせられたのも、良かった。