- ポスト・トゥルースは感情が事実を上回る
- 誤情報を避けるには多角的確認が必要
- ビジネスには情報リテラシーが必須
近年、情報環境の急激な変化に伴い、世論形成において従来の客観的事実よりも個人の感情や信念が強く影響を及ぼす現象、「ポスト・トゥルース」が注目を集めています。20代のビジネスマンにとって、正確な情報把握が求められる今、ポスト・トゥルースの本質やその社会的背景、またそれにどう対処すべきかを理解することは極めて重要です。ここでは、ポスト・トゥルースの意味や起源、広がり、さらには情報リテラシー向上のために取るべき具体的対策について、理論的かつ実践的な視点から解説していきます。
ポスト・トゥルースとは
\nポスト・トゥルース(post-truth)という概念は、従来の「事実」が優先される価値観に一石を投じ、感情や個人的信念が公衆の意見形成において決定的な役割を果たす状況を指す用語です。オックスフォード大学出版局によれば、ポスト・トゥルースは「感情や個人的信念に訴える事象と比べ、客観的事実が世論形成に与える影響が低下する状況」を意味します。
この言葉の起源は1992年に遡り、セルビア系アメリカ人劇作家のスティーブ・テシックによるエッセイにおいて、「私たちは自由な国民として、あるポスト真実の世界に生きたいと決意した」という表現が使われたことが最初とされています。当初は「真実が知られた後」という意味合いで用いられていたものですが、その後、特定の出来事や状況の後に「真実」という概念が相対化され、衰退してしまうというニュアンスに変化しました。
2016年には、ポスト・トゥルースがオックスフォード大学出版局の「Word of the Year」に選ばれるとともに、国際的な関心が一層高まりました。この年、イギリスのブレグジット国民投票やアメリカ大統領選挙などの政治的出来事が、感情に訴える情報操作やフェイクニュースの拡散を助長した背景にあり、従来の客観的な情報よりも個人的な信念が優先される社会状況が顕在化しました。
また、ポスト・トゥルースは単なる抽象的な概念に留まらず、政治、経済、文化といった多岐にわたる分野に影響を及ぼしており、特に政治領域では「ポスト・トゥルース政治」として顕在化しています。ポスト・トゥルース政治とは、具体的な政策論点や詳細な議論の裏付けが求められることなく、感情や偏見に基づく主張が繰り返される政治文化を指し、世界各地においてその典型例が観察されています。
さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の急速な普及が、ポスト・トゥルース現象を助長する大きな要因となっています。誰もが容易に意見を発信できる環境は、多様な情報の即時拡散を可能とする一方で、事実に基づかない情報や感情的な言説が飛び交う土壌ともなっています。従来のマスメディアが持つ客観性や信頼性が揺らぎ、個々人の主観に基づく情報が優先されることで、現実の把握が困難になるリスクを孕んでいるのです。
ポスト・トゥルースの注意点
\nポスト・トゥルースの現象は、単に「情報の氾濫」を意味するだけでなく、その背後にあるアルゴリズムによるフィルタリングや意図的な情報改変、さらには感情操作が関与している点に留意が必要です。まず、SNSやオンラインメディア上での情報は、その発信源の信頼性、記事全体の文脈、そして情報が発信された背景を十分に検証することが求められます。
ビジネスシーンにおいても、意思決定や戦略立案の過程で、事実と感情が混在する情報に左右される危険性は否めません。たとえば、投資判断や市場分析の際、真実性よりも印象的なストーリーや感情に訴える言説に基づいて判断を下すことは、リスクを伴う結果を招きかねません。
また、ポスト・トゥルースの背景には、情報発信における意図的なバイアスが存在することが指摘されています。一部のメディアや情報提供者は、特定の政治的・経済的利害関係を背景に、事実を曲解・誇張して伝える場合があります。このような情報は、特にインターネット上で爆発的に拡散されやすく、個人が正確な判断を下すためには、複数の情報源を比較・検証する必要性が増しています。
情報リテラシーの低さが、ポスト・トゥルース現象を一層深刻にしている現状も見逃せません。多くの場合、情報の真偽を判断するための基準が欠如しているため、感情や先入観に基づく誤った結論に至るリスクが大きく、これが社会全体の意思決定に影響を与えています。
対策として、まずはファクトチェック(事実確認)の推進が挙げられます。アメリカでは2007年から「PolitiFact」などのサイトが、情報の正確性を検証する活動を行っており、その成果がピューリッツァー賞などで評価されています。また、日本においてもファクトチェック活動の普及が求められ、総務省の公表した情報通信白書では、国内での認知度の低さが問題視されています。
加えて、ビジネスパーソンとしては、情報を取り巻く環境の中で自らのバイアスを意識し、客観的な判断基準を持つことが必要です。たとえば、情報の出所や記者自身の資格・経歴、また情報発信源の会社概要や信頼性を確認する作業は、情報の真偽を見極めるうえで不可欠なプロセスです。
さらに、オンライン上での情報検索においては、利用する検索エンジンやニュースポータルサイトが、個々の利用者の好みに合わせたフィルタリングを行っている可能性も考慮しなければなりません。特に、グーグルやフェイスブックといったプラットフォームは、利用者の過去の閲覧履歴に基づいて情報を提示するため、同じ視点に偏った情報しか得られないリスクが存在します。このような状況下では、異なる視点の情報にアクセスできる複数のソースを活用する姿勢が求められます。
また、企業内における情報戦略としては、内部情報管理の透明性と情報共有の正確性が重要です。従業員が誤情報や過剰な感情に流されることなく、冷静な判断を下すための教育プログラムや情報リテラシー向上のための研修を実施することが、企業価値の向上につながると考えられます。
このように、ポスト・トゥルースの現状を正しく認識し、情報の正確な取捌き方を学ぶことは、ビジネスシーンのみならず広く社会全体において必須の課題となっています。常に多角的な視点を持ち、情報を鵜呑みにするのではなく、自己の判断基準を磨いていく姿勢が求められる時代と言えるでしょう。
まとめ
\n現代の情報社会において、「ポスト・トゥルース」は、客観的事実よりも個人の感情や信念が世論形成において大きな影響力を持つ現象として広く認識されています。
本稿では、まずポスト・トゥルースの定義やその起源、さらには急速に普及するSNSやデジタルメディアの影響により、従来の客観的事実に基づく議論が薄れ、感情が優先される現状を概観しました。1992年以降、言葉の意味は段階的に変化し、特に2016年以降、その使用量が飛躍的に増加した背景には、政治的な出来事や情報拡散手段の変革が深く関与しています。
また、ポスト・トゥルースがもたらすリスクとして、誤情報の拡散や、意思決定に対する感情偏重が挙げられ、ビジネスにおいても、正確な情報収集と検証作業の徹底が求められています。これに対抗するために、ファクトチェックの活用や複数の情報源からの情報収集、さらには内部における情報リテラシー教育が不可欠であることも確認されました。
将来に向け、ますます高度化する情報テクノロジーとともに、情報の真偽を見極める力は、20代の若手ビジネスマンを含む全ての社会人にとって必須のスキルとなります。正確な情報に基づいた意思決定が、企業の成長や社会全体の健全な発展につながるため、常に多角的な視点で情報を吟味し、感情に流されることなく事実を重視する姿勢を貫く必要があります。
このような時代背景において、ビジネスパーソンが身につけるべき最も重要な資質の一つは、自己の認識に偏りがないかを常に問い直し、情報の真偽を冷静に判断する能力であると言えます。情報が瞬時に伝播し、感情が過剰に強調される環境下では、信頼できるデータや事実に基づかない判断は、企業活動のみならず社会全体に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
総じて、ポスト・トゥルース現象に対抗するためには、自身の情報リテラシーの向上に努めると同時に、メディアが提供する複数の視点を取り入れたバランスの良い情報収集と、情報発信者に関する背景確認を怠らないことが求められます。多くの情報が飛び交う現代において、正確な事実と向き合い、感情と客観性とのバランスを保つ態度が、ビジネスの現場でも社会全体でも不可欠なものとなるでしょう。
最終的に、情報の洪水の中から真実を見極めるためには、一人一人が「不断の警戒」を怠らず、情報の出所や内容、そしてその背景にある意図について常に疑問を抱きながら行動することが肝要です。今後もポスト・トゥルースの現象に対する理解を深め、正確な情報によって自己の判断力を養うことで、グローバルなビジネス環境においても確固たる地位を築いていくことが期待されます。