- 組織構造は成功の基本
- 共通目的・貢献・対話が大事
- 柔軟改善で変化に挑む
事業が拡大したのに、誰が判断するのか分からない。部署ごとに仕事が重なり、顧客への対応が遅れる。こうした問題は、個人の能力だけでなく、組織構造が事業の実態に合っていないことから起こる場合があります。組織構造は、業務をどう分担し、権限や責任をどこに置き、部門同士をどう連携させるかを決める、会社運営の土台です。
組織構造を考えるときは、組織図の見た目を整えるだけでは不十分です。どの市場に価値を届けるのか、判断の速さと専門性のどちらを優先するのか、現場にどこまで任せるのかといった経営上の選択が、部門の分け方や指揮系統に表れます。組織構造は経営戦略を実行に移すための仕組みであり、反対に、既存の構造が実行できる戦略の範囲を左右することもあります。
代表的な形には機能別組織、事業部制組織、マトリックス型組織などがありますが、どれか一つがあらゆる企業に適しているわけではありません。事業の種類、会社の規模、顧客への対応方法、従業員の経験、必要な統制の強さなどを踏まえて選ぶ必要があります。各形式の特徴に加え、選定の視点、設計手順、導入後の点検方法まで整理し、自社の組織構造を考えるための実務的な手掛かりを紹介します。
組織構造とは何か:組織図に表れる役割と、表れにくい運営ルール
組織構造とは、組織の目的を実現するために、仕事、役割、権限、責任、報告や相談の経路を配置した仕組みです。組織図では、部門や役職の上下関係を確認できますが、実際の構造はそれだけではありません。どの業務を誰が担当するか、判断をどこまで任せるか、部門をまたぐ課題を誰が調整するかといった運営ルールも含まれます。
たとえば、組織図では営業部と開発部が同じ階層にあっても、顧客の要望を開発計画に反映する会議や手順がなければ、両部門は連携しにくいままです。反対に、組織図上で別々の部門に分かれていても、共通の目標や情報共有の仕組みがあれば、協働できる場合があります。図に描かれた線だけでなく、実際に情報や判断がどう流れているかを確かめることが大切です。
組織構造の基本には、分業と調整があります。分業は、業務を役割ごとに分けて専門性や効率を高めることです。一方、分けた仕事を組み合わせ、最終的な成果につなげるには調整が欠かせません。分業を細かくしすぎると、担当範囲の境目で仕事が止まったり、全体の成果に関心が向きにくくなったりします。担当を明確にするだけでなく、引き継ぎや共同判断の方法まで設計します。
また、組織構造は、経営理念や人事制度、業務プロセス、情報の扱い方と影響し合います。事業部に売上責任を持たせても、価格や採用を決める権限が本社に集中していれば、事業部の判断は限られます。成果を事業単位で評価するのか、全社の協力も評価するのかによっても、部門間の行動は変わります。構造を見直す際は、組織図だけを変更せず、関連するルールも合わせて確認しましょう。
組織が機能するために必要な三つの条件
組織構造が整っていても、構成員が目的を理解せず、必要な協力や情報交換も行われなければ、仕組みは十分に機能しません。組織を成り立たせる条件として、共通の目的、協力しようとする意欲、コミュニケーションが挙げられます。これらは経営者だけが理解していればよいものではなく、日々の仕事を担う人が自分の役割と結び付けて認識できる状態が求められます。
共通の目的は、組織がどこを目指すのかを示すものです。理念やビジョンだけでなく、事業ごとの目標や、部門が担う成果までつながっている必要があります。全社目標が「顧客の課題を解決する」だとしても、現場が何をすれば貢献したことになるのか分からなければ、判断の拠り所になりません。全社の方針を部門、チーム、個人の業務に落とし込み、優先順位の違いが生じたときに立ち返れるようにします。
協力しようとする意欲は、組織の目標に向けて自分の力を役立てようとする姿勢です。意欲は精神論だけで生まれるものではありません。役割に必要な権限があるか、成果や貢献が適切に認められるか、業務量に無理がないか、相談できる相手がいるかなど、職場の仕組みが影響します。部門ごとの評価が強すぎて全社協働が損なわれる場合は、個別成果と共同成果の両方を評価する方法を検討します。
コミュニケーションは、指示を伝えることに限りません。現場で得た顧客情報を共有する、判断の背景を説明する、懸念を早めに相談する、他部門と優先順位を調整することも含まれます。会議やツールを増やすだけでは、情報が必要な人に届くとは限りません。誰が、何を、いつ、どの経路で共有するのかを決め、情報を受け取った側が行動に移せるようにします。組織構造と日常の対話を一体で整えることが重要です。
代表的な組織構造と、それぞれが力を発揮する条件
組織構造の選択肢を比べるときは、部門を何を基準に分けるのかに注目すると整理しやすくなります。業務の種類で分けるのか、事業や製品で分けるのか、プロジェクトごとに人を集めるのかによって、専門性、判断の速さ、部門間の連携のしやすさが変わります。以下の形式は、実務でよく検討される代表例です。実際には、複数の構造を組み合わせて運営する企業もあります。
機能別組織と事業部制組織
機能別組織は、営業、開発、製造、人事、経理など、業務の機能ごとに部門を設ける構造です。同じ専門分野の人が集まるため、知識や手順を共有しやすく、技能の蓄積や標準化を進めやすい点が特徴です。事業の種類が比較的限られ、全社で共通の製品やサービスを提供している企業では、専門人材や設備を集約して活用しやすくなります。
一方で、顧客に商品やサービスを届けるには複数の機能が関わるため、部門間の調整が欠かせません。営業が顧客の要望を把握しても、開発や製造の優先順位を変える権限がなければ、対応が遅れることがあります。全社的な判断を経営層に集めすぎると、上層部が日々の調整に追われるおそれもあります。部門横断の会議や共通目標を設け、全体最適を担う責任者を明確にすると運営しやすくなります。
事業部制組織は、製品、顧客層、地域などの事業単位で部門を分ける構造です。各事業部が営業や開発などの機能を持ち、担当する市場や顧客に合わせて判断します。現場に近い単位で意思決定しやすく、事業ごとの成果や課題を把握しやすい点が利点です。事業の種類が複数あり、それぞれに異なる市場対応が求められる場合に検討しやすい形式です。
事業部に機能を重複して置くことで、人員や設備などの費用が増える場合があります。また、事業部ごとに成果を追うあまり、顧客情報や人材、技術が共有されにくくなることもあります。本社は、全社方針や資源配分、共通の基準を担い、事業部は現場の判断を担うなど、権限の境界を明確にします。事業部間の協力が必要な領域については、全社共通の目標や調整役も用意しましょう。
カンパニー制とマトリックス型組織
カンパニー制は、事業部制よりも各事業単位の独立性を高め、会社のように運営する考え方です。事業責任者に広い裁量を与え、事業ごとの収益や資源の使い方に責任を持たせます。事業ごとの成果を意識しやすく、経営人材を育てる機会にもなります。ただし、裁量を広げるほど、判断の妥当性を確認する仕組みや、全社として守る基準が必要になります。
独立性が強まると、同じ顧客に複数の部門が別々に対応したり、似た機能をそれぞれが抱えたりすることがあります。短期の事業成果を優先し、全社で必要な研究や人材育成が後回しになる懸念もあります。経営陣は事業の細部を直接管理するのではなく、投資判断、リスク管理、共通資産の活用など、全社で決める事項を定めます。独立性と統制の範囲を曖昧にしないことが運用の前提です。
マトリックス型組織は、機能と事業など二つの軸を組み合わせ、従業員が専門部門と事業部の両方に関わる構造です。専門性を保ちながら、事業やプロジェクトを横断して人材を活用できます。複数の製品、地域、顧客ニーズに同時に対応する必要があり、機能別組織だけでは連携が不足し、事業部制だけでは専門人材の重複が生じる場合に選択肢になります。
ただし、従業員が複数の上司から異なる指示を受けると、優先順位や評価をめぐって混乱が生じます。直属の上司、プロジェクト責任者、機能責任者がそれぞれ何を決めるのか、仕事量の配分や評価を誰が調整するのかを事前に定めます。二つの軸を置くこと自体が目的ではありません。実際に必要な協働が生まれるか、調整にかかる負担を受け止められるかを検討してから導入しましょう。
チーム型組織とネットワーク型組織
チーム型組織は、特定の課題やプロジェクトの達成に向け、必要な専門性を持つメンバーを部門横断で集める構造です。既存部門の枠を越えて、開発、営業、運用などの担当者が一緒に課題に取り組めます。顧客向けの新サービスの立ち上げや、業務プロセスの改善など、期限や成果が明確な仕事で活用しやすい形式です。
プロジェクトが通常業務に上乗せされると、参加者の負担が増え、どちらの仕事を優先すべきか分からなくなることがあります。参加者の上司とプロジェクト責任者が、稼働時間、意思決定、成果物、終了条件を合意しておく必要があります。チームが解散した後に、得られた知識を共有する方法も考えましょう。活動が終わっても成果やノウハウが部門に戻らなければ、経験が組織に蓄積されません。
ネットワーク型組織は、社内外の複数の組織や専門家がつながり、それぞれの強みを生かして価値を提供する構造です。業務の一部を外部の企業に委託する場合や、複数の拠点、パートナーと協働する場合などに関係します。すべての機能を社内に抱えず、必要な能力を関係先と組み合わせられる一方、情報共有や品質管理、責任の所在を明確にする必要があります。
どの形式も、名称だけで導入効果が決まるわけではありません。機能別組織にプロジェクトチームを設けたり、事業部制の本社に専門機能を集めたりするように、複数の仕組みを組み合わせることもできます。組織の形を分類することより、どの成果を誰が担い、どの判断をどこで行い、部門間の依存関係をどう管理するかを明確にすることが大切です。
自社に合う組織構造を選ぶための判断軸
組織構造の選定では、「流行しているから」「他社で採用されているから」という理由だけで決めず、事業上の課題と結び付けて考えます。どの構造にも得意なことと負担になることがあり、一つの利点を伸ばすと、別の面に調整コストが生じることもあります。望ましい形を探す出発点は、経営戦略と現状の業務の間に、どのような不整合があるかを具体的に捉えることです。
戦略、顧客、業務の特性から考える
まず、会社が何を実現しようとしているのかを確認します。専門性の蓄積や業務品質の標準化を優先するなら、機能別に人材や知識を集める意義があります。事業ごとに異なる顧客や市場へ素早く対応するなら、事業単位に責任と権限を置く方法が候補になります。複数の専門分野を組み合わせて個別の課題を解く必要があるなら、プロジェクトチームやマトリックス型が適することもあります。
次に、顧客が価値を受け取るまでの流れを確認します。問い合わせ、提案、設計、提供、利用後の支援など、顧客体験を構成する業務が部門の境界で滞っていないかを見ます。顧客のニーズが製品や地域ごとに異なるのか、共通の専門機能を通じて対応できるのかによって、部門を分ける軸は変わります。社内の都合だけで組織を区切らず、価値提供の流れから検討することが大切です。
仕事の性質も判断材料です。手順が定まった業務では、担当や承認経路を明確にすることで品質を保ちやすくなります。一方、正解が定まらず関係者との試行錯誤が必要な仕事では、現場の裁量や部門横断の協働が重要です。定型業務と探索的な業務が同じ部門に混在している場合は、すべてを同じ管理方法にせず、業務特性に応じて権限や進め方を変えることも検討します。
規模、権限、コスト、文化を照らし合わせる
会社の規模や成長段階によって、必要な構造は変わります。小規模な組織では、経営者が複数の役割を兼ね、非公式な相談で物事が進むことがあります。人員や拠点が増えると、口頭で共有するだけでは情報が届かず、役割や判断の経路を明文化する必要が出てきます。過去の慣習をそのまま拡大せず、現在の人数と業務量に合った管理単位を検討しましょう。
意思決定をどこに置くかも重要です。価格変更や採用、顧客対応など、判断の種類ごとに、全社で統一すべきものと現場に任せるものを分けます。すべてを本社で承認すると、判断が集中して遅くなる可能性があります。反対に、現場へ大きな裁量を渡しても、必要な情報や能力、共通のルールがなければ判断のばらつきが生じます。権限委譲は、責任、情報、支援と合わせて設計します。
組織構造には、直接費用だけでなく、会議や調整にかかる時間、重複業務、判断待ちによる機会損失も関わります。事業部を増やせば市場対応力が上がる可能性がある一方、共通機能の重複や連携の負担も増えます。マトリックス型では専門人材を共有しやすい反面、優先順位の調整に時間がかかることがあります。利点とともに、追加される調整負担を見積もる視点が必要です。
最後に、組織文化や人材の成熟度を確認します。現場が自律して動く経験を持たない状態で、急に階層を減らしても、責任の所在が不明瞭になる場合があります。逆に、細かな承認が続く環境では、従業員が自分で判断する機会を失っているかもしれません。現在の能力や習慣を無視して理想形を掲げるのではなく、必要な教育、管理職の役割変更、評価制度の整備を組織構造の変更と一緒に考えます。
組織構造を設計・変更する実務の進め方
組織構造の見直しは、組織図を描き替える作業ではなく、経営課題を特定し、役割や権限を再設計して、実際の業務に定着させる取り組みです。最初に理想の形式を決めてから現場に当てはめると、現状の問題や必要な支援が見落とされることがあります。変更する理由、期待する成果、影響を受ける業務を順に整理し、実施後に検証できる状態をつくります。
課題を特定し、目指す成果を定める
最初の段階では、経営層と現場の双方から、現在の業務の流れや困りごとを集めます。「連携が悪い」といった抽象的な表現だけでは原因を特定しにくいため、どの場面で、誰の判断や情報が不足し、どのような影響が出ているのかを確かめます。顧客対応の遅れ、承認の集中、責任範囲の重複など、観察できる事象に分解すると、構造の問題と運用の問題を区別しやすくなります。
課題を整理したら、変更によって何を改善したいのかを定めます。判断時間を短くする、顧客情報が部門を越えて活用されるようにする、専門知識を共有しやすくするなど、具体的な状態として表します。目標が「組織をフラットにする」だけでは、手段が目的に置き換わってしまいます。改善したい業務上の成果を先に定め、組織構造がその成果にどう寄与するかを説明できるようにします。
現状把握では、組織図だけでなく、職務分掌、承認規程、会議体、評価項目、業務フローも確認します。職務分掌とは、部門や役職ごとに担当業務を定めたものです。文書上のルールと実際の運用が異なる場合は、現場で誰が判断し、誰に相談しているのかを聞き取ります。顧客対応や案件の流れを一つ取り上げ、関係者がどの段階で関わるかを可視化すると、停滞や重複の所在を把握しやすくなります。
役割と権限を設計し、影響を確かめる
次に、業務のまとまりに合わせて部門やチームを定め、責任者と担当範囲を設計します。組織の境界を決める際は、部署名の整合性より、成果を出すために必要な業務が分断されないかを重視します。業務の開始から完了までを誰が担うか、部門をまたぐ場合に誰が全体を調整するかを明らかにします。複数部門が同じ成果に関わるなら、責任の重なりを放置せず、最終判断者を定めます。
役割を決めたら、責任に見合う権限を配分します。責任だけを負わせて必要な予算や人員の判断を許さないと、担当者は成果を出すために上位者の承認を待つことになります。権限だけを渡して責任や報告の仕組みを定めない場合は、判断のばらつきやリスクの見落としにつながります。判断事項ごとに、誰が提案し、誰が決定し、誰に共有するかを明文化し、例外時の相談先も定めます。
設計案を作った後は、従業員、顧客、取引先、関連部門に及ぶ影響を確認します。部署名や上司が変わるだけでなく、情報の引き継ぎ、目標設定、評価、システム上の権限、契約や社内規程に変更が必要となることがあります。複数の案を比較する際は、期待する効果だけでなく、移行に必要な人員や費用、想定される混乱も記録します。関係者の懸念を早く把握すれば、実施前に設計を修正できます。
最後に、実施時期、責任者、周知方法、移行中の業務手順、検証指標を決めます。変更直後は旧組織と新組織の運用が混在することがあるため、問い合わせ先や暫定ルールを用意します。検証指標は、売上などの結果だけでなく、承認にかかる時間、手戻り、引き継ぎ漏れ、部門間の課題解決状況など、構造が影響する過程も含めます。導入を完了日で区切らず、見直しの時期まで計画に入れておきましょう。
導入後に組織構造を機能させる運営の工夫
組織構造は、設計しただけでは期待した成果を生みません。従業員が自分の役割を理解し、判断に必要な情報を得て、他部門と協働できるよう、日々の運営を整える必要があります。新しい部署や役職を設けても、従来の承認手順や評価方法が残っていれば、実際の行動は変わりにくいものです。組織図と業務の進め方が一致しているかを、導入後も確かめます。
まず、担当範囲と意思決定の基準を分かりやすく共有します。業務を引き受ける側には、求める成果、利用できる資源、判断できる範囲、報告が必要な条件を伝えます。曖昧なまま任せると、担当者は判断を避け、上司への確認が増えます。反対に、細部まで手順を固定すると、現場の状況に応じた工夫がしにくくなります。守るべき基準と、現場が選べる方法を分けて示すことが大切です。
部門横断の仕事には、調整の場と責任者を設けます。会議を増やすより、会議で扱う判断事項、参加者、決定後の実行担当を明確にする方が有効です。たとえば、顧客からの要望を製品改善につなげる場合、情報を持ち込む部門、優先順位を決める責任者、実装の可否を判断する部門を定めます。議論だけで終わらないよう、決定事項と未解決の課題を記録し、次の行動につなげます。
評価と報酬も、組織構造に合わせて点検します。事業部制で各事業の成果を評価する場合でも、全社共通の顧客や人材を支える行動が評価されなければ、部門内の成果が優先されやすくなります。個人や部門の成果と、協働や知識共有などの貢献をどう扱うかを整理します。数値目標を設定する際は、測りやすい指標だけを追うことで、品質や長期的な能力形成が損なわれないかにも注意します。
情報の流れを整えることも欠かせません。必要な情報が特定の人に集中していると、組織図を変更しても判断がその人のところで止まります。顧客情報、業務手順、決定の背景、進行中の課題を、関係者が適切な範囲で参照できるようにします。ただし、共有範囲を広げるだけでは情報が埋もれるため、更新責任者や保管場所、記録の形式を定めます。情報を探す時間を減らし、判断や行動に使える状態を保ちましょう。
組織構造の見直しで起こりやすい失敗と対策
組織変更がうまく進まない原因は、形式の選択を誤ることだけではありません。変更の目的が伝わらない、責任と権限が釣り合わない、現場の業務量が見落とされるなど、設計と実行の両方に課題が潜んでいます。問題が起きてから個人の努力で補おうとすると、負担が一部の管理職や担当者に集中しやすくなります。よくあるつまずきを前もって想定し、確認の手順を用意しておきましょう。
よくあるのは、組織図を変更しただけで、仕事の進め方を変えないことです。事業部に責任を移したのに、予算や人員の承認が本社に残れば、現場の判断は速くなりません。部署を統合しても、業務フローやシステムの権限が別々のままなら、連携の手間は続きます。構造変更の対象を組織図に限定せず、承認規程、会議、評価、情報管理まで洗い出し、変更する項目と維持する項目を整理します。
組織を細分化しすぎることも問題になります。専門性を高めるために細かな部門を作ると、担当の境界が増え、引き継ぎや調整が複雑になります。部門の存在理由が曖昧なまま組織を増やすと、意思決定の経路が長くなり、全体を見渡す責任者も不明瞭になりがちです。新しい部門を設ける前に、既存の役割や業務を再整理できないか、部門横断の責任者で対応できないかを検討します。
反対に、階層を減らすことを目的化して、管理機能を不足させるケースもあります。階層を少なくすると現場との距離が縮まる可能性がありますが、管理職の担当範囲が広がり、支援や育成、業務状況の把握が難しくなることがあります。管理者一人が見る人数だけで一律に決めず、業務の複雑さ、メンバーの経験、相談頻度、危機対応の必要性を考慮します。管理職が担う仕事を明確にし、必要な補助役や支援手段も整えます。
変更の説明が足りないと、従業員は目的や自身への影響を推測し、不安や誤解が広がる場合があります。変更後の組織図を一斉に知らせるだけでなく、なぜ変更するのか、何が変わり、何は維持されるのか、質問や懸念をどこに伝えるのかを説明します。すべての疑問に即答できない場合も、未決定事項と決定時期を明らかにします。現場からの意見を受け付け、設計や移行方法に反映した内容を返すことが、納得感につながります。
組織構造と組織体制・組織図・企業文化の違い
組織構造と近い言葉には、組織体制、組織図、組織文化などがあります。実務では同じような意味で使われることもありますが、区別すると課題の所在を整理しやすくなります。たとえば、担当者が分からない問題は組織図や職務分掌の確認で改善できる場合があります。一方、部門間で情報を出し合わない問題は、構造だけでなく評価や文化、日々の運用を見直す必要があります。
組織構造は、分業、権限、責任、指揮命令、部門間の関係を定めた基本設計です。組織体制は、一般に組織を運営するための枠組みを広く指し、役割配置や会議、規程、管理の仕組みなどを含む使われ方をします。両者の境界は必ずしも厳密ではありませんが、構造を部門や権限の設計、体制を実際に運営する仕組みとして捉えると、議論の焦点を合わせやすくなります。
組織図は、組織構造の一部を図で示したものです。通常は部門の所属関係や役職の階層、報告先などを確認するために使います。しかし、組織図だけでは、業務の流れ、非公式な相談経路、プロジェクトでの役割、判断基準までは十分に分かりません。図を作成したら、職務分掌や権限表、業務フローなどと照合し、実際の運営と食い違っていないかを確認しましょう。
企業文化は、組織で共有される価値観や行動の習慣を指します。たとえば、失敗を報告しやすいか、異なる部門に協力を求められるか、判断の理由を説明するかといった日常の振る舞いに表れます。組織構造を変えても、旧来の評価や慣習が残れば、従業員の行動は変わらないことがあります。構造を変える際には、望ましい行動を促す仕組みや管理職の関わり方も合わせて見直すことが重要です。
組織構造についてよくある質問
組織構造の検討では、どの形式が優れているのか、変更はどのくらいの頻度で行うべきかなど、共通する疑問が生まれます。答えは企業の状況によって異なりますが、判断の際に押さえたい考え方はあります。形式の名称に正解を求めるより、現在の経営課題や業務の実態に照らして、どの仕組みが必要なのかを考えると、議論を実行可能な内容に進められます。
「最も優れた組織構造はありますか」という問いに対しては、すべての企業に共通する唯一の正解はありません。専門性を集約する、事業ごとの判断を速める、部門を越えた協働を増やすなど、重視する成果によって有効な形は変わります。さらに、同じ企業でも事業や業務によって必要な構造が異なる場合があります。形式を選ぶ前に、解決したい課題と優先する成果を言葉にしましょう。
「組織構造はどのくらいの頻度で見直すべきですか」という質問にも、決まった周期はありません。事業の追加や撤退、顧客層の変化、拠点の拡大、責任者の過度な負担、意思決定の停滞などが見直しのきっかけになります。変更を頻繁に行うと現場が混乱するため、組織図を定期的に動かすこと自体を目的にせず、経営計画や業務上の課題が変化したときに必要性を検証します。
「組織構造を変えずに改善することはできますか」という問いには、可能な場合があります。問題の原因が、情報共有の不足、会議の進め方、承認基準の曖昧さ、目標や評価のずれにあるなら、運用ルールの修正で改善することがあります。構造変更は関係者や業務への影響が大きいため、まず原因を特定し、比較的小さな改善で解決できるかを確認します。それでも責任の重複や権限の不整合が残る場合に、構造の変更を検討します。
まとめ:組織構造は事業の目的に合わせて設計し、運用から学ぶ
組織構造は、部門や役職を並べるための図ではなく、会社の目的を実現するために業務、権限、責任、情報の流れを設計する仕組みです。機能別組織は専門性を蓄積しやすく、事業部制組織は市場に近い判断を行いやすいなど、形式ごとに得意な条件があります。カンパニー制、マトリックス型、チーム型、ネットワーク型も、それぞれ異なる強みと運営上の負担を持っています。
自社に合う形を選ぶには、経営戦略、顧客への価値提供、業務の特性、意思決定の所在、必要な専門性、管理にかかる負担を一緒に考えます。組織を変えるときは、現状の課題を具体的な事象から捉え、目指す成果を定めたうえで、部門や役割、権限、評価、情報共有、移行計画を整えます。形式の変更だけでは、仕事の進め方や従業員の行動が変わらないことを忘れてはいけません。
導入後は、当初の目的に照らして、判断の停滞や業務の重複、顧客対応、部門間の協力がどう変わったかを確認します。想定どおりに機能していなければ、組織図をすぐに再編するのではなく、権限や業務手順、会議、評価など、問題の原因に近い部分から修正します。組織構造は一度決めたら固定するものではなく、事業と人材の変化に合わせ、運用の結果を確かめながら調整していくものです。